「従業員代表の役割と選出方法について」解説!

会社が成長し、働きやすい環境を整えていくためには、時間外労働(36協定) や就業規則の変更など、従業員にとって大切なルール作りを避けて通れません。これらのルールを法的に有効なものとし、労働者の意見を反映させるための手続きとして、「従業員代表(労働者代表)」の選任が法律で定められています。もし、この代表者の選び方(選出方法)が曖昧だと、せっかく決めた協定が無効になってしまうという、思わぬトラブルにつながりかねません。
この記事では、従業員代表が持つ役割、正しい選出方法、そして会社が知っておくべき手続きを、わかりやすくご紹介します。
そもそも従業員代表とは?
従業員代表(あるいは労働者代表)は、その事業所(または企業全体)の全従業員の過半数代表のことを指します。
従業員の過半数を組織する労働組合がない事業所は、労使協定を締結する場合や、就業規則を作成・変更する場合に従業員代表を選出しなければなりません。
従業員代表の主な役割
従業員代表は、主に以下の場面で、事業所の全労働者を代表する立場として会社と向き合います。
- 労使協定の締結
・時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)
・賃金からの控除に関する協定
・変形労働時間制に関する協定など - 就業規則の意見聴取
就業規則を作成・変更する際に、意見を聴取し、意見書を添付することが義務付けられています。
意見聴取と怠るとどうなる?
労働者代表の意見を聴かずに周知された就業規則は、直ちに無効になるわけではありません。しかし、労基法第90条の意見聴取義務違反となり、罰則が適用される可能性がある他労使トラブルにもつながりかねないので、怠ることなく意見を聴取しましょう。
従業員代表になれない人
- 労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者
→経営者と一体的な立場であることから、労働者の代表者としての適格性を欠くと判断されるので従業員代表になることはできません。
従業員代表の選出方法
労働者の過半数を代表する者という性質上、民主的な手続きによって選出する必要があります。「会社側からの指名」など不適切な手続きで選ばれた従業員代表との労使協定の締結や就業規則の意見書は無効と判断される可能性があります。
また、従業員代表の選出は、「事業所単位」で行うのが原則です。
本店・支店など物理的に異なる場所に事業所がある場合には、それぞれに従業員代表を選出しなければなりません。しかし、独立性を持たない事業所(人事権がない・事務を行わないなど)は本社と一括して取り扱うことが認められる場合があります。
逆に、同一の場所にあったとしても、例えば機械メーカーの生産部門と施設管理部門のように、労働の実態や業態が大きく異なる部門は別の事業所とみなされ、それぞれで選出が必要になる場合があります。
事業所の単位をどう捉えるかは一概には言えず、総合的に判断することとなります。
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候補者を募る
従業員代表を選出する目的(どのような労使協定を締結するためか等)を全従業員に明確に周知し、候補者を募ります。周知方法は、メール・掲示版など記録に残る方法で行うことをおすすめします。朝礼などで口頭で伝えると、その後従業員から「聞いていない」と主張された場合、会社側が周知の事実を証明するのが非常に困難になるからです。
もし立候補者がでない場合には、従業員同士で推薦し、推薦された者が代表者に就任することに同意すれば、その者を候補者とすることができます。
<参考1>候補者募集の案内(例)
〇〇年度 従業員代表
候補者募集の案内
労働基準法に基づき、当事業場における労使協定の締結や、就業規則の作成・変更に関する意見聴取を行うため、全従業員の過半数を代表する「従業員代表」を選出します。つきましては、〇〇年度の従業員代表の候補者を下記の通り募集いたします。皆様のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。
記
1.従業員代表の役割:従業員代表は、労働基準法に基づき全従業員の皆様の意見を会社に伝える役割を担います。具体的には、「従業員の過半数を代表する者」として、当事業所における下記の項目について、会社と協議・協定の締結を行います。
(法令で定められている協定等の取扱い)
・時間外労働・休日労働に関する労働協定(三六協定)
・育児休業・介護休業等の適用除外に関する労働協定
・高年齢者雇用継続給付・育児休業給付・介護休業給付の支給申請に関する労働協定
・一斉休憩の適用除外に関する労働協定
・賃金の一部控除に関する労働協定
・フレックスタイム制に関する労働協定
・変形労働時間制に関する労働協定
・事業場外労働に関するみなし労働時間制に関する労働協定
・就業規則の作成及び変更に際しての意見聴取
・事業所単位の期間制限を延長する際の意見聴取
・その他法令等に定められたもの
2.従業員代表の任期 ○○年○月○日~○○年○月○日
※任期については、法律上は特に定めがありませんが、1年単位の労使協定が多いことから、実務上、任期を1年とするケースが多い傾向にあります。
3.従業員代表候補者 募集期間・方法
・期間:〇〇年〇月〇日まで
・方法:添付の「従業員代表立候補/推薦 届出書」を〇〇部〇〇課〇〇までご提出ください。※推薦する場合には、推薦された従業員の同意が必要です。
5.今後の選出スケジュール(予定)
・〇月〇日:候補者確定・掲示
・〇月〇日〜〇月〇日:信任投票期間
・〇月〇日:従業員代表の確定と公表
<参考2>従業員代表立候補/推薦 届出書(例)
〇〇年度 従業員代表
立候補/推薦 届出書
提出日:〇〇年〇月〇日
所属部署:
氏名:
Ⅰ.届出区分:下記のいずれかに〇をしてください。
[ ] 1.私は、法令で定められた協定などを会社と締結するにあたり、その当事者となる従業員代表に立候補いたします。
[ ] 2.私は、法令で定められた協定などを会社と締結するにあたり、その当事者となる従業員代表に下記の者を推薦します。
Ⅱ. 【2. 推薦の場合のみ記入】 推薦候補者情報
候補者氏名:
推薦理由:
Ⅲ.候補者本人による同意・確認(立候補・推薦いずれの場合も必須)
私は、本届出をもって従業員代表候補者となることに同意するとともに、労働基準法上の管理監督者ではないことを確認し、全従業員の代表として公平に職務を遂行することを誓います。
■同意署名:
2
候補者の中から選出する
全従業員が、「この候補者に職務を任せるかどうか」の意思表示(信任)を行い、過半数の支持をもって代表者を選出します。なお、従業員代表は管理監督者以外の者から選出されなければなりませんが、管理監督者は従業員代表を選出する手続き(投票・挙手など)には参加することができます。
選出方法について
従業員代表の選出方法としては、投票、挙手、回覧が一般的です。
しかし、"回覧"はその性質上だれが支持しているかがわかるため秘密保持が確保できません。"挙手"も、選出方法の物理的な記録を残しにくいことや、公の場での挙手は心理的な圧迫を与えることから民主性を損なう可能性があるため、当事業所ではあまりおすすめしません。
選出にあたっては、不正防止の観点から、投票箱を設置する場合は記名投票、あるいはシステム上で二重投票を排除できるWebアンケート(Microsoft Formsなど)を用いた無記名投票を推奨いたします。これにより、全従業員が自由に意思表示できる公正な環境が確保できます。
<参考3>選出方法の案内(例)
・複数名候補者があがった場合
・webアンケートによる無記名投票 の例
〇〇年度 従業員代表選出について
先に募集いたしました〇〇年度の従業員代表候補者について、募集期間が終了いたしました。定員を超える複数名の方にご立候補いただきましたので、下記の通り、全従業員の皆様による選挙投票を実施いたします。
記
1.候補者一覧:別紙のとおり(〇〇年度 従業員代表候補者一覧)
2.投票の実施概要
投票期間:〇〇年〇月〇日 9:00~〇〇年〇月〇日17:00まで
投票対象者:当事業所に在籍するすべての従業員
投票方法:Microsoft Forms(もしくはGoogleForms)による無記名投票を実施します。以下のURLから投票画面にアクセスしてください。
URL:
投票内容:候補者の中から、従業員代表としてふさわしいと思う方を1名選び、投票してください。
※投票は無記名で、集計は〇〇部〇〇課にて厳正に行います。回答内容は、投票目的以外には使用されません。
選出方法:全従業員の過半数の投票を得た候補者を従業員代表として確定します。
どの候補者も過半数の投票を得られなかった場合、改めて周知を徹底し、再投票を実施します。
3.ご協力のお願い
本選出は、事業場の労使協定の法的正当性を担保するために極めて重要です。全従業員の皆様の意思を反映させるため、ご投票いただきますよう、ご理解とご協力をお願いいたします。
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従業員代表を確定・周知する
従業員代表が民主的な手続きを経て確定した後、会社が行うべき主な流れは以下の通りです。
1.選任届の作成と保管
「従業員代表選任届」は、会社(事業所)の従業員の過半数を代表する者が適切に選任されたことを証明するための書類です。法律上、作成義務はありませんが、後々の労務トラブルを防ぎ、選出の正当性を証明するために非常に重要です。
<参考4>従業員代表選任届(例)
〇〇年度 従業員代表選任届
労働基準法に定める、各種労使協定の締結や就業規則の作成・変更などに係る意見聴取については、株式会社〇〇の全労働者(または過半数)の総意を得て、下記のとおり代表者を選任し、届け出いたします。
〇〇年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇殿
従業員代表
役職:
氏名: 印
記
1.選任年月日:〇〇年〇月〇日
2.任期:〇〇年〇月〇日~〇〇年〇月〇日
3.選出の内訳:同意した労働者数 〇名(別紙のとおり)/全労働者数 〇名
2.社内での周知
掲示板やメールなどで、選出された代表者の氏名や任期などを全ての従業員に周知します。
3.各種労使協定の締結と届出
確定した代表者は、会社との間で法律で定められた各種労使協定を締結する権限を持ちます。代表者確定後は、必要な協定の見直しや締結、就業規則の作成や変更の意見聴取を行います。
労使協定や就業規則の意見書の様式は厚労省の様式集をご参考ください。
(就業規則の意見書は、「就業規則(変更)届」の中にあります)
従業員代表に対する不利益な取扱いの禁止
従業員代表が会社の顔色をうかがうことなく、労働者の代表として正当な意見を述べられるように、法律は会社に以下の行為を禁じています。
従業員が代表者であること、代表者になろうとしたこと、あるいは代表者として正当な活動を行ったことを理由に、賃金を減らしたり、降格させたり、その他一切の不利益な取り扱いを行うことは認められません。
▶この記事の執筆者
Laca社会保険労務士事務所
代表社会保険労務士
河野 永実加


