会社を運営するうえで避けて通れないのが「労使協定」です。

労働基準法では「原則として禁止されていること」でも、労使協定を結ぶことで「例外的に認められる」という仕組みが多く存在します。しかし、実態と協定の内容がズレていたり、うっかり結び忘れたまま運用したりしている企業が実は少なくありません。

今回は、特に結び発生しやすい代表的な5つの労使協定の正式名称と、結び忘れた場合に会社が負う大きなリスクについて分かりやすく解説します。

労使協定を結び忘れるとどうなる?3つの重大リスク

「お互いに納得して働いているから大丈夫」と思っていても、法律上は一切通用しません。労使協定がない状態での運用は、会社側に一方的なリスクが生じます。

Risk 1. 労働基準法違反による「罰則」

協定なしで全額払い以外の天引き(賃金控除)や、バラバラの休憩(一斉付与の除外)を行った場合、労働基準法違反として30万円以下の罰金などの罰則対象となります。

Risk 2. フレックス等の無効化・「多額の未払い残業代」請求

例えばフレックスタイム制の協定を結ばずに運用していた場合、制度自体が「無効」とみなされます。その結果、1日8時間・週40時間を超えた労働がすべて通常の「時間外労働」として計算され直し、過去にさかのぼって多額の未払い残業代を請求される危険があります。

Risk 3. 制度の拒否権がなくなり、労務トラブルへ

「入社1年未満の従業員を育休の対象外にする」労使協定を結んでいない場合、入社1か月目の従業員から育休の申し出があっても会社は拒否できません。拒否した場合は育児・介護休業法違反となり、行政指導や企業名公表のリスクに晒されます。

うっかり結び忘れやすい代表的な労使協定5選(正式名称)

特に働き方の変化(リモートワークや柔軟な勤務体制の導入)に伴って結び忘れが増えている5つの協定です。

1. フレックスタイム制に関する労使協定

始業・終業時刻を従業員自身に委ねる「フレックスタイム制」を導入するには、必ず労使協定の締結が必要です(労働基準法第32条の3)。

この協定では、単に「フレックスにします」と決めるだけでなく、以下のような詳細なルールをあらかじめ定める必要があります。

【協定で定める主な内容】
・対象となる労働者の範囲(全社、特定部署など)
・清算期間(労働時間を計算する期間。1か月〜最大3か月まで)およびその起算日
・清算期間における総労働時間(契約上働くべき所定労働時間)
・標準となる1日の労働時間(有給休暇を取得した際に何時間働いたとみなすか)
・コアタイム(必ず出勤しなければならない時間帯 ※任意)
・フレキシブルタイム(出社・退社を選べる時間帯 ※任意)

清算期間が1か月を超える場合は、協定の締結だけでなく労働基準監督署への届出も必須となります。

2. 一斉休憩の除外に関する労使協定

労働基準法第34条第2項では「休憩は全従業員に一斉に与える」のが原則です。
フルリモートワークで各自が個別に休憩を取る場合や、部署ごとに交代で休憩を取らせる場合は、この協定が必要です(届出は不要)。

3. 育児・介護休業等の適用除外に関する労使協定

法律上、育休などは原則として全労働者の権利ですが、労使協定を結ぶことで法律が定める特定の条件に該当する従業員のみを対象外(適用除外)にできます(育児・介護休業法第6条等)。

【労使協定で除外できる対象者の範囲】

  1. 育児休業・介護休業
    ・入社1年未満の労働者
    ・申出の日から1年以内(介護休業は93日以内)に雇用関係が終了することが明らかな労働者
    ・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  2. 子の看護休暇・介護休暇
    ・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
    ※法改正により「入社6か月未満」を理由とする除外は廃止されました。

上記以外の独自基準(例:入社2年未満の者、正社員以外など)を設けて除外することは認められていません。この協定を結んでいない場合、たとえば入社1か月目の従業員から育休の申請があった際にも会社は拒否できなくなります(届出は不要)。

4. 賃金控除に関する労使協定

労働基準法第24条第1項による「賃金全額払いの原則」の例外を設ける協定です。 社宅費・親睦会費・購買代金・社員旅行の積立金などを給料から天引き(控除)する場合は締結が必要です(届出は不要)。

5. 育児休業期間中における就労に関する労使協定

育児休業中の就労は原則不可ですが、事前に労使協定を締結している場合に限り、一時的・臨時的な就労が可能になります。 「産後パパ育休」や従来の育休中にちょっとした業務対応を行わせる可能性がある場合は、あらかじめ協定を結んでおく必要があります(届出は不要)。

労使協定の作成には厚生労働省の「様式・ダウンロード集」が便利です

各種労使協定書や労基署への届出用紙を作成する際は、厚生労働省の公式ウェブサイトで配布されている様式(Word・PDF形式)を参考にするとスムーズです。

記載例やフォーマットが用意されていますので、協定書を作成する際のベースとしてご活用ください。

🔗 主要な協定届等の様式ダウンロード|厚生労働省

まとめ:自社の労使協定を一度チェックしてみませんか?

労使協定の恐ろしいところは、「労使協定を結ばないと適用できないとは知らなかった」としても法律違反になってしまう点です。また、厚生労働省のテンプレートをそのまま使うだけでは、自社独自の運用実態(リモートワーク時のルールや控除項目の網羅など)に合致せず、穴ができてしまうケースもあります。

・自社の働き方に合った協定書になっているか不安がある
・古い協定書のまま更新されておらず見直したい
・協定書の作成や労基署への届出をプロに任せたい

このようなお悩みがありましたら、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。貴社の実態に合わせた最適な労使協定の整備をサポートいたします。