はじめに

従業員に残業(時間外労働)をしてもらった際、支払う残業代の計算方法で迷われた経験はないでしょうか。
実務において、「残業をした時間すべてに25%などの割増賃金をつけなければいけないのかどうか」は、非常に判断に迷いやすいポイントの一つです。
実は、法律上の残業には「所定外労働」「法定外労働」の2種類があり、割増賃金の支払い義務が発生するタイミングが異なります。
今回は、給与計算で特に間違いやすいこの2つの違いについて、具体的な事例を交えて分かりやすく解説します。

「所定時間外」と「法定時間外」の根本的な違い

まず、基準となる「2つの時間」を整理しましょう。

  • 所定労働時間会社が就業規則などで独自に定めた労働時間(例:7時間45分、6時間など)
  • 法定労働時間労働基準法で定められた労働時間の上限(原則:1日8時間・1週40時間)

この2つの時間を超えて働いた場合の扱いが、以下のように分かれます。

項目内容割増手当は…?
所定外労働(法定内残業)会社の規定時間を超えているが、1日8時間(週40時間)は超えていない時間不要(通常の時給分だけの支給でOK)
法定外労働(法定時間外残業)労働基準法の上限である1日8時間(週40時間)を超えた時間必要(通常の時給 + 25%以上の割増)

【事例でわかる】割増賃金が発生するライン

実際の勤務パターンにあてはめて考えてみましょう。

■ 事例①:フルタイム社員(所定労働時間 7時間45分)の場合


【勤務条件】
・勤務時間:8:30 〜 17:00(休憩1時間)
・所定労働時間:7時間45分
・ある日に残業をして、17:30まで働いた場合(実労働時間:8時間15分)
この場合の17:00以降の残業時間の扱いは次のようになります。

項目所定外?法定外?どっち?割増手当は…?
17:00 〜 17:15
(7時間45分〜8時間まで)
【所定時間外】です。8時間以内なので、法令通りであれば不要
17:15 〜 17:30
(8時間を超えた部分)
【法定時間外】です。8時間を超えているため、25%以上の割増手当の支給が必要。


※ 会社の独自のルール(就業規則等)について
法律上は「8時間を超えるまで割増不要」ですが、就業規則等の会社独自のルールで「7時間45分を超えた段階から割増手当をつける」と定めている場合には、その規定に従って割増がつきます。


■ 事例②:時短勤務社員(所定労働時間 6時間)の場合


【勤務条件】
・勤務時間:9:00 〜 16:00(休憩1時間)
・所定労働時間:6時間
・業務の都合で1時間残業し、17:00まで働いた場合(実労働時間:7時間)
育児や介護などで時短勤務をしている従業員が残業をした場合も、考え方は同じです。

項目所定外?法定外?どっち?割増手当は…?
16:00 〜 17:00
(6時間〜7時間まで)
【所定時間外】です。
所定の6時間を超えていますが、1日8時間の枠内に収まっています。
8時間以内なので、法令通りであれば不要

法定外残業をさせる場合に必須となる「36協定」の手続き

「法定外労働(1日8時間・1週40時間を超える残業)」が発生する場合、単に割増賃金を支払えばよいわけではありません。あらかじめ法律上の手続きを行っておく必要があります。

  • 36(サブロク)協定の締結と労働基準監督署への提出
    • 法定外残業をさせるためには、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。これらを行わずに1日8時間を超える残業をさせた場合、労働基準法違反となってしまいます。
  • 36協定の締結には「従業員代表(過半数代表者)」の選出が必要
    • 36協定を締結するにあたっては、会社と協定を結ぶ相手として「従業員の過半数で組織する労働組合」、またはそうした組合がない場合は「従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)」を適切に選出する必要があります。従業員代表の選出は、「従業員代表の役割と選出方法について」解説!の記事をご参考ください。

まとめ・専門家へのご相談

給与計算を行う際は、「会社が定めた残業(所定外)」なのか「法律が定める残業(法定外)」なのかを正しく区別することが大切です。また、法定外残業が発生している場合は、36協定の届出や代表者選出の手続きが正しく行われているかも確認しておく必要があります。
・自社の就業規則や賃金規程の記載がどちらのルールになっているか確認したい
・36協定の締結や過半数代表者の選出手続きが正しくできているか不安
・パートや時短社員の残業代計算ルールを見直したい
このような疑問や不安をお持ちの事業主様・人事担当者様は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。貴社の就業規則や労務管理体制を確認し、法的に正しく無駄のない運用をサポートいたします。