
【全8回】人事労務担当者のための「妊娠・出産・育休・復職」実務完全ガイド
本記事は、従業員の妊娠報告から復職・助成金申請までの対応手順を解説する連載シリーズの第1回です。
- 第1回(本記事): 従業員から妊娠の報告を受けたら?(初期対応・母体保護・メールテンプレ)
- 第2回: 産前産後休業・育児休業・産後パパ育休・パパママ育休プラスの仕組み
- 第3回: 出産報告を受けた後の社内手続き
- 第4回: 【応用編】産前に有給・無休を取得していた場合の産前休業期間の考え方
- 第5回: 育児休業中の手続き・復職までの実務フロー
- 第6回: 復職後の社内手続き・受け入れ体制と制度運用
- 第7回: 両立支援等助成金(出生時育児休業等コース)
- 第8回: 両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
従業員から妊娠の報告を受けた際、企業側には適切な安全配慮義務と、安心・スムーズに休業・復帰ができる環境整備が求められます。
対応の遅れや不十分なコミュニケーションは、従業員の不安を煽り、優秀な人材の離職やトラブルにつながる恐れがあります。
第1回では、従業員から妊娠報告を受けた直後から産休に入るまでの実務フローを時系列で解説します。
1. 従業員から妊娠の報告を受けた時の「時系列対応フロー」
STEP 1:法律で義務付けられている「個別の制度周知と意向確認」の実施
従業員から妊娠の報告を受けたら、まず最初に行わなければならないのが「個別の制度周知」と「休業等の意向確認」です。
これは育児介護休業法により企業に義務付けられています(面談または書面・電子メール等で実施)。
必ず伝えるべき4つの事項
- 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する制度
- 育児休業・出生時育児休業の申出先(人事窓口や担当者名)
- 育児休業給付金に関する情報
- 休業期間中における本人負担分の社会保険料免除の取り扱い
実務上のポイント
厚生労働省が提供している社内周知・意向確認用の様式例を活用して案内を作成・送付するとモレがなく確実です。
参考リンク:育児・介護休業法について(厚生労働省)
※個別の周知・意向確認用様式例や社内周知用ポスター等がダウンロードいただけます。
STEP 2:トラブルを防ぐ「母体保護制度・就業制限」の任意周知(強く推奨)
労働基準法や男女雇用機会均等法で定められている妊娠中の「母体保護制度」は、法律上「企業から自発的に案内すること」までの義務はありません。しかし、従業員が制度を知らず無理をして体調を崩したり、後から「なぜこんな制度があることを教えてくれなかったのですか?」といったトラブルに発展したりするのを防ぐため、報告を受けた段階で周知することを強く推奨します。
伝えておくべき母体保護・環境整備の権利
- 妊婦健診のための時間の確保(均等法第12条)
勤務時間中に受診するための時間を確保させなければなりません(1時間単位取得可・原則無給)。- 妊娠23週まで:4週間に1回
- 妊娠24週〜35週まで:2週間に1回
- 妊娠36週〜出産まで:1週間に1回
- 参考リンク:女性にやさしい職場づくりナビ ダウンロードページ ※申請書がダウンロードできます。
- 就業制限(危険有害業務・重量物取扱の禁止)
妊娠中は、身体や母体に負担のかかる危険有害業務への就業が制限・禁止されています(具体例:15kg以上の重量物を取り扱う作業や、有毒ガスを発生する場所での作業、著しい振動を受ける作業など)。 - 軽易業務への転換
身体的負担の少ない業務(例:立ち仕事から座り作業中心の事務への変更、15kg未満でも負担の大きい荷物運搬の除外、ハードな現場作業からの除外等)への変更を請求できます。 - 労働時間の制限
時間外労働(残業)・休日労働・深夜労働の免除・制限を請求できます。 - 母性健康管理措置
医師から指示があった場合、通勤緩和や業務軽減を求められます。
主治医が記入する母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)の提出を受けて対応します。
(母健連絡カードは従業員や人事担当者が記入するものではありません)
【メールテンプレート】妊娠報告を受けた時の案内文面(男女別)
① 女性従業員から妊娠報告を受けた時
件名:ご妊娠のお祝いおよび今後の社内手続き・サポート制度のご案内
〇〇さん
ご妊娠の報告をいただき、ありがとうございます!心よりお祝い申し上げます。
体調第一で過ごしていただくことが一番ですので、無理のないよう周りにも頼ってくださいね。
会社として、〇〇さんが安心して妊娠期を過ごし、産休・育休の取得およびスムーズな復帰ができるようサポートしてまいります。
つきましては、今後のお手続きやサポート制度についてご連絡いたします。
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1. 妊娠中にご利用いただける母体保護・就業配慮制度
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会社では、妊娠中も健康に働けるよう以下の制度を整えています。体調に合わせて気兼ねなくご相談ください。
・妊婦健診のための時間確保(勤務時間内の通院・1時間単位での取得可)
・身体に負担の少ない業務への変更(立ち仕事の緩和、重い荷物(15kg以上)の運搬除外など)
・残業・休日労働・深夜労働の免除または制限
・時差出勤や休憩時間の延長(医師の指導がある場合)
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2. 今後の流れと提出書類について
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体調が良いタイミングで構いませんので、本メールに添付している以下の書類をご確認・ご提出ください。
① 産前産後休業申出書(母子手帳の表紙コピーを添付の上、産前休業〇か月前までに提出)
② 育児休業申出書(産前休業〇か月前までに提出)
③ 健康診査・保健指導申請書(健診で中抜け・お休みする際にご提出ください)
④ 労働制限請求書や深夜業制限請求書(身体に負担の少ない業務への変更/残業・休日労働・深夜労働の免除または制限を請求したい場合、〇日前までに提出)
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3. 育児休業等の制度に関するご案内
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妊娠・出産・育休に関わる制度の概要につきまして、添付の「育児休業制度のご案内」資料をご参照ください。
※(人事担当者向けメモ)添付資料は厚生労働省の「(妊娠・出産等申出時)個別周知・意向確認書」等を基に自社用に作成・修正したもの(社長メッセージや自社目標等は特になければ省略可能)
① 育児休業・出生時育児休業制度について
② 育児休業の申出先
③ 育児休業給付金について(休業中の生活支援給付)
④ 休業期間中の社会保険料免除について
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産前休業に入る1〜2か月前に、お引継ぎや休業中の連絡方法、復帰後の働き方のイメージについて面談の機会を設けさせていただきます。※(人事担当者向けメモ)面談は任意です
体調に波がある時期かと思いますので、体調不良や通院が必要な際は遠慮なく上長または人事までご連絡ください。
どうぞお大事になさってください。
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[差出人名・部署名]
② 男性従業員から配偶者の妊娠報告を受けた時
件名:ご家族のご妊娠のお祝いおよび育児休業等に関する手続きのご案内
〇〇さん
ご家族のご妊娠の報告をいただき、心よりお祝い申し上げます!
体調面などサポートも大変な時期かと思いますが、ご自身も無理のないよう過ごしてくださいね。
会社として、〇〇さんが安心して出産・育児期を迎えられるよう、各種制度の案内やサポートを行ってまいります。
つきましては、育児休業(産後パパ育休含む)等の制度案内と今後のお手続きについてご連絡いたします。
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1. 今後の流れと提出書類について
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育児休業等の取得をご希望・ご検討される場合は、時期に合わせて以下の書類をご確認・ご提出ください。
① 出生時育児休業申出書
※産後パパ育休を取得する場合(原則、休業開始の2週間前までに提出)
② 育児休業申出書
※通常の育児休業を取得する場合(原則、休業開始の1か月前までに提出)
③ 労働制限請求書・深夜業制限請求書
※出産後、育児のために残業・深夜労働の免除や制限を希望される場合(〇〇日前までに提出)
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2. 育児休業等の制度に関するご案内
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妊娠・出産・育休に関わる制度の概要につきまして、添付の「育児休業制度のご案内」資料をご参照ください。
※(人事担当者向けメモ)添付資料は厚生労働省の「(妊娠・出産等申出時)個別周知・意向確認書」等を基に自社用に作成・修正したもの(社長メッセージや自社目標等は特になければ省略可能)
① 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)制度について
② 育児休業の申出先
③ 育児休業給付金について(休業中の生活支援給付)
④ 休業期間中の社会保険料免除について
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育休の取得時期や期間、働き方について不安な点やご相談があれば、いつでもお気軽に上長または人事までご連絡ください。
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[差出人名・部署名]
STEP 3:必要書類(申請書)の交付と回収
報告を受けたら、必要書類一式を提示・配布します。(メール添付、ポータルサイトからのDL、直接手渡しいずれもOK)
従業員に案内・交付する書類一覧
- 健康診査・保健指導申請書: 妊婦健診による中抜け・休暇の管理用(健診日の3営業日前までに提出)
- 産前産後休業申出書(+母子手帳の表紙コピー): 産休手続き用(産前休業に入る1か月前までに提出)
- 育児休業申出書・休業期間変更申出書・休業申出撤回届
- 所定外労働制限請求書・時間外労働制限請求書/〔育児・介護〕のための深夜業制限請求書
3・4について:
厚生労働省の育児・介護休業等に関する規則の規定例の内、「11 社内様式例」に以下の様式が格納されているため、自社用に修正して使いましょう。
- (出生時)育児休業申出書
- 〔(出生時)育児・介護〕休業取扱通知書
- 〔(出生時)育児・介護〕休業申出撤回届
- 〔(出生時)育児・介護〕休業期間変更申出書
- 〔育児・介護〕のための所定外労働制限請求書
- 〔育児・介護〕のための時間外労働制限請求書
- 〔育児・介護〕のための深夜業制限請求書
STEP 4:ハラスメント防止措置の徹底
妊娠・出産・育児休業等を理由とする解雇、減給、降格などの不利益取扱いは法律で固く禁止されています。また、上司や同僚からのマタニティハラスメント(マタハラ)を防止するため、不適切な言動を未然に防ぐ社内周知や相談窓口の提示を行い、会社として毅然とした姿勢とサポート体制を示すことが必要です。
STEP 5:休職前面談の実施(任意・推奨)
休職前面談は法律上の直接的な義務ではありませんが、従業員を安心させ、復帰後のイメージを具体化してもらうために実施を強く推奨します。現在、日本の女性の育休後復職率は9割を超えて推移しており、企業にとって優秀な人材を定着させるための面談の重要性は益々高まっています。
休職前面談の実施要領(産前休業1〜2か月前)
人事担当者や直属の上長との面談を設定し、以下の内容を話し合います。
- 制度内容・給付金・社会保険料免除の再確認
- 休業期間中の連絡方法(社内情報の共有等)
- 引継ぎ計画や状況について
- 復帰後の希望する働き方のイメージ共有(※育児短時間を取得するのか等。この段階では大枠の目安確認で可。復帰直前に改めて確定させます)
【メールテンプレート】産前2〜3週間前のリマインドメール(女性従業員向け)
産前休業に入る直前のタイミングで、出産後に必要となる手続き書類をあらかじめ案内しておくことで、出産直後の混乱を防ぎスムーズな手続きが可能になります。
産前2〜3週間前のリマインドメール(女性従業員向け)
件名:産前休業開始に向けてのご案内(出産後の提出書類について)
〇〇さん
産前休業まであと少しとなりましたね。お体の調子はいかがでしょうか。
お仕事の引き継ぎ等も進めていただき、ありがとうございます。
無事に出産・休業を迎えられるよう願っておりますが、産休入りに先立ちまして「出産後」にご提出いただく必要書類について事前にご案内いたします。
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■ 出産後にご提出いただく書類一覧
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出産が無事に完了しましたら、体調が落ち着いたタイミングで以下の書類のご提出・ご準備をお願いいたします。
① 育児休業期間変更申出書
※出産日が予定日と前後し、育児休業の開始日や期間を変更する場合に提出
② 出産手当金支給申請書
※健康保険から手当金の支給を受けるための申請書(医師・助産師の証明欄あり)
③ 母子手帳の「出生届出済証明」ページのコピー
※自治体で交付・受領印が押されたページの画像またはコピー
④ 記載内容に関する確認書・申請等に関する同意書
※会社側が育児休業給付金の申請手続きを代行するために必要な書類です(添付の様式をご参照ください)
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上記書類につきましては、本メールに添付(または郵送)しております。
※(人事担当者向けメモ)④の「同意書」は、厚生労働省の「育児休業給付金の申請に係る同意書」様式等を会社側で事前に用意・添付のうえご送付ください。
産後は何よりお体を休めていただくことが一番ですので、手続き等でご不明な点や緊急の連絡事項がございましたら、いつでも人事部までご連絡ください。
まずは無事のご出産を心より応援しております。どうぞお大事になさってください。
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[差出人名・部署名]
2. 妊娠悪阻や切迫早産で休業した場合の「傷病手当金」対応
妊娠中に「重度つわり(妊娠悪阻)」や「切迫早産」で医師から自宅安静や入院指示が出た場合、業務外の病気休業として健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
| 項目 | 概要・会社対応のポイント |
| 支給条件 | 医師から「労務不能」と判断され連続3日以上休業し、4日目以降も休んだ場合 |
| 対象外 | 被扶養者(家族の扶養に入っている方)や国民健康保険加入者 |
| 支給額の目安 | 休んだ日数に応じて「標準報酬日額 × 2/3相当額」を支給 |
| 実務上の注意点 | 母健連絡カードのみでは傷病手当金の申請はできません。医師による「傷病手当金支給申請書への証明(労務不能である旨)」と、会社側の「勤務・無給の証明」が必要です。 |
3. 経営者・人事労務担当者の皆さまへ
妊娠報告を受けた初期の段階で、法的な義務を果たすだけでなく、母体保護制度や手続きの全体像を丁寧に提示することは、従業員の不安を解消し、会社へのエンゲージメントを高める上で決定的に重要です。
社内制度を正しく機能させ、ハラスメントのない環境を整えることは、優秀な人材の離職を防ぎ、復帰後に即戦力として活躍してもらうための大切な企業戦略となります。
当事務所では、育児介護休業法に準拠した規程の見直し、社内運用フローの構築、休職前面談のサポート、各種社会保険手続きの代行を行っております。スムーズな労務管理でお困りの際は、ぜひご相談ください。

